はじめに
「DEI」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。現在、様々な企業や業界が「DEI (Diversity – 多様性、Equity – 公正性、 Inclusion -包括性」という言葉に注目しています。美容業界も例外ではなく、年齢、性別、肌の色、障がいの有無などに関わらず、全ての人に美しさを届けられる「インクルーシブビューティー」の考え方が重要となっています。この記事では、美容業界においてそれを実現するためのUX(ユーザー体験)デザインのポイントを紹介します。
1. インクルーシブデザインとインクルーシブビューティー
インクルーシブデザインとは、特定のユーザー層だけでなく、あらゆる背景や能力を持つ人々が利用できるように製品やサービスを設計するアプローチです。例えば、化粧品のパッケージを誰でも簡単に開けられるように工夫したり、視覚に制約がある人が使いやすいように文字を大きくしたりするなど、幅広い人に配慮したデザインが考えられます。
美容業界では、インクルーシブビューティーという言葉が広がりつつあります。インクルーシブビューティーとは、障がいや不自由があっても快適に使用できるように設計された美容製品やサービスのことを指します。単にファンデーションの色を増やすだけでなく、肌の色や髪質、年齢、性別、体型に関係なく、すべての人の美しさを尊重し称える姿勢が求められています。消費者が美容アイテムを選ぶ際、自分に合ったものが見つかり、「自分も美容業界で受け入れられている」と感じられることが重要です。
2. 包摂性(インクルージョン)の重要性
2024年9月、シカゴの消費者行動の専門アドバイザーであるCircana™が、AI企業SeeMe Indexと共同でリリースしたレポート「Inclusive Beauty Drives Sales: An AI-Powered Road Map for the Beauty Industry」によると、包摂性(インクルージョン)を重視するブランドは、市場での成長において大きな優位性を持つことがわかりました。SeeMe Indexで「認定包摂ブランド」とされたM·A·CやDove、L’Oréal Paris、Fentyなどの企業は、包摂性が低いブランドよりも1.5倍の成長率を記録し、18%もの成長を達成しています。このように、多様なアイデンティティに対する理解や対応が、ブランドの成長と消費者の支持に直結する時代になっており、インクルーシブな取り組みがビジネスの成功に欠かせない要素として注目されています。
3. インクルーシブビューティーのさまざまなアプローチ
- SHISEIDO – 容器への工夫
インクルーシブビューティーを考える際、容器のデザインの配慮も欠かせません。SHISEIDOの「UNIVERSAL BEAUTY DESIGN」プロジェクトでは、全ての人に美しいデザインを届けることを目指し、誰もが使いやすい容器設計に細やかな工夫がなされています。プリオールシリーズでは、多角形のボトルと転がりにくいキャップを採用し、軽い力で開けられる設計にしています。また、マキアージュの口紅には凹凸のあるデザインを採用し、指がかりを持たせることで、口紅を出す際の安定性を向上させました。濡れた手でも持ちやすいように、カーブを付けて滑りにくくした容器デザインも、日常生活での使いやすさを高める大切な工夫です。このように、製品の使い心地やアクセシビリティに配慮したUXデザインが、シニア世代の方や不自由がある方も含め、より多くの消費者に美しさが届けられるようにします。
- Fenty Beauty – 様々な人種/肌の色に合った製品の生産
「Beauty for All(すべての人に美を)」を掲げるFenty Beautyは、2017年の設立当初から40色のファンデーションを展開し、幅広い肌色に対応することで多くの人が自分にぴったりの色を見つけられるようにしました。このアプローチは、単なる商品展開ではなく「多様性を後から追加するものではなく、最初からの優先事項にすべき」という理念を広め、業界に大きなインパクトを与えています。Fenty Beautyはファンデーションにとどまらず、コンシーラーやハイライトなど多岐にわたる製品で、さまざまな肌色や質感に対応するアイテムを提供し、インクルーシブビューティーの象徴としての地位を確立しています。
- TONAL Cosmetics – 気候への対応
インクルージョンの他の観点として、気候や地域の必要性に合わせた製品も必要です。TONAL Cosmeticsの創業者のクリスタル・アラート氏は、過酷な気候や熱帯地域で使用していた製品が溶けてしまった経験から、特定のニーズに応える化粧品を作りたいと考えるようになったといいます。アラート氏や共同創業者であるダスワニー氏の想いは、消費者が自分に合ったニッチな製品や独自のニーズに対応した化粧品を求める流れと一致しています。TONAL Cosmeticsは、前年比59.4%の売上成長と32%のリピート購入率を誇り、性別に特化した処方や肌悩みに応じたソリューションの提供で、美容市場の個別対応と包括性への需要に応えています。
- The Ordinary – 価格帯もインクルーシブに
手頃な価格で高品質な製品を提供することも、インクルーシブな取り組みの一環です。美容業界の消費者の4分の1以上が、手頃な価格の製品を提供することがブランドのインクルーシブな取り組みに繋がると考えています。業界全体の平均的な価格が製品コストの6〜10倍にもなる中、The Ordinaryのようなブランドは、透明性のある価格戦略で人気を集めています。製品の価格構造を透明にすることで、消費者に信頼感を与え、異なる経済背景を持つ人々にもアクセスしやすい美容体験を提供しています。
- ネーミングや広告における表現の変化
製品の表現においても、多様性と尊重が欠かせない要素です。例えば、従来「アンチエイジング」や「美白」といった用語が一般的でしたが、これらの表現は加齢や肌の色がネガティブに映る可能性がありました。現在では、「ウェルエイジング」や「ブライトニング」といった表現を使うことで、年齢や肌色の違いを自然な変化として尊重し、美容がよりインクルーシブな視点を持つように変化しています。
また、美容ブランドが使用するビジュアルにも、インクルージョンの要素が取り入れられるようになってきています。キャンペーンや広告には、幅広い年齢層、性別、人種、体型のモデルを起用し、多様な美の在り方を積極的に表現することが増えています。これにより、消費者は自分がそのブランドの一部であると感じ、製品やブランドに対する親近感を抱きやすくなります。
おわりに
今後、消費者は美容ブランドのインクルーシブな取り組みにますます注目し、その姿勢がUXデザインや顧客満足度にどのように反映されるかを意識するようになるでしょう。インクルーシブなUXは単なる「使いやすさ」だけでなく、多様なユーザーにとって「心地よさ」や「安心感」を生み出すものであり、多様なニーズに応えるデザインが欠かせません。肌の色、年齢、性別、障がいの有無といった個々の違いが尊重され、誰もが自分に合った製品を見つけ、受け入れられていると感じられることが大切です。
当社Uismでは、過去に美容ブランドのカスタマージャーニーを手掛けた経験があり、その際にもユーザー体験を最適化するためのリサーチが不可欠であると実感しました。UXリサーチは、消費者が製品やブランドに対して抱く期待や価値観を深く理解し、それに応えるデザインやサービスを提供するための鍵です。企業がインクルーシブな取り組みを実際の行動で示すためには、UXリサーチを通じて多様な消費者の声を反映し、顧客満足度向上に努めることが重要です。
インクルーシブなマーケティングはこれからの美容業界に欠かせないものです。こうしたインクルーシブなUXリサーチを通じて、貴社のブランド体験をさらに心地よいものにしたいとお考えなら、ぜひ私たちUismにお声がけください。一緒に、すべての人が安心感を感じられる美容体験をつくっていきましょう!