インタビューの質を向上させるモデレーターの認知バイアス対策

インタビューを行うモデレーターにとって、認知バイアスはUXリサーチの結果に大きな影響を及ぼす可能性があります。バイアスとは「偏り」や「先入観」のことで、インタビューの場では無意識のうちに特定の方向に偏った考えや判断をしてしまうことを指します。例えば、質問の仕方や回答者の心理状態によってデータが正確でなくなり、正しい結論を導くことが難しくなります。本記事では、認知バイアスがどのようにして発生するのか、その影響を最小限に抑えるための具体的な方法と改善例をご紹介します。

なぜ認知バイアスが起きるのか

認知バイアスとは?

認知心理学や社会心理学での様々な観察者効果の一種。人間が物事の意思決定をするときに、これまでの経験や先入観によって無意識に考えが偏ってしまうこと。

認知バイアスが起きる理由は、脳が情報を処理する過程にあります。私たちは日常的に大量の情報を受け取りますが、すべてを正確に処理するのは不可能です。そのため、脳は情報を簡略化し、迅速に判断を下すために過去の経験や既存の知識を活用します。この過程で無意識に誤った思い込みや偏りが生じるのです。


インタビューの場において、認知バイアスを排除することはデータの信頼性を高め、より正確な結論を得るために重要です。モデレーターとしては、自分の思考パターンを理解し、意識的に中立な視点を保つことが求められます。

避けるべき認知バイアスの種類と具体例

スマホアプリに関するインタビューを例にして、モデレーターが避けるべき認知バイアスの種類と、その改善例をご紹介します。

確証バイアス

モデレーターが自分の仮説や期待に合った回答を無意識的に求めてしまうこと。

ダメな例:「(この機能は多くのユーザーがすでに高評価としているので)あなたはこの機能が良い機能だと思いますか?」
この質問では、機能の使いやすさに関する肯定的な意見を引き出そうとしてしまい、否定的な意見を出しにくくなります。

改善例:「この機能について、あなたの率直な意見を教えてください。」
オープンエンドの質問にすることで、参加者が自由に意見を述べやすくなります。

フレーミング効果

質問の仕方や言葉の選び方で、参加者の回答に影響を与えてしまうこと。

ダメな例:「この製品を使っていて何が良かったですか?また、何が嫌でしたか?」
この質問では、参加者がポジティブな面とネガティブな面に偏った回答をしやすくなります。

改善例:「最後にこの製品を使ったときのことを教えてください。」
中立的な質問をすることで、参加者が自身の経験を自由に話せるようになります。

社会的望ましさバイアス

参加者が社会的に望ましい回答や良い印象を与えようとすることで、実際の意見や行動を隠してしまうこと。

ダメな例:「あなたはこのアプリを支援するために寄付したいですか?」
社会的に良い印象を与えようとして、実際には寄付したい気持ちがなくても「はい」と答える可能性があります。

改善例:「最後にこのアプリを支援するために何か行動を起こしましたか?」
具体的な行動を尋ねることで、実際の行動や経験に基づいた回答を引き出すことができます。

基本的な帰属エラー

参加者が自分のミスを自分の特性のせいだと考え、製品の問題を見逃すこと。

ダメな例:「どうしてこのタスクを完了できなかったのですか?」
参加者が自分のスキル不足を理由に挙げやすくなり、製品の問題点が見えにくくなります。

改善例:「このタスクを完了する際にどんな困難がありましたか?」
タスクの困難さを具体的に尋ねることで、製品の設計上の問題点を明らかにしやすくなります。

アンカリングバイアス

初めに与えられた情報に影響され、その後の判断や回答が偏ってしまうこと。

ダメな例:「60%のユーザーがこの機能を高く評価していますが、あなたはどう思いますか?」
初期情報が参加者の意見に影響を与えてしまいます。

改善例:「この機能について、使ってみた印象はどうでしたか?」
初期情報を与えずに質問することで、参加者が自分の意見を述べやすくなります。

クラスタリングバイアス

モデレーターが少数のデータポイントからパターンを見出し、過度に一般化してしまうこと。

ダメな例:「他のユーザーも同じ問題を報告していますが、あなたもそうですか?」
先入観を持って質問することで、参加者がその意見に同調しやすくなります。

改善例:「あなたの経験から、この製品に関してどんな問題がありましたか?」
個別の経験を詳細に尋ねることで、実際の使用状況を正確に把握できます。

後知恵バイアス

参加者が過去の出来事に対して事後に合理的な説明をつけようとすること。

ダメな例:「そのときになぜこの機能を使わなかったのですか?」
過去の行動に対して後付けの理由を作りやすくなります。

改善例:「この機能を最後に使ったのはいつですか?その時に何が起こりましたか?」
具体的な利用シーンや直近の経験を尋ねることで、事後の合理化を避け、より正確なフィードバックを得られます。

集団思考バイアス

グループインタビューで同調圧力や影響力の偏りが生じること。

ダメな例:「参加者Aに反対する意見はありますか?」
この質問は、反対意見に対する圧力を生み、参加者が自由に意見を述べることを妨げる可能性があります。また、発言力のある参加者の意見に他の参加者が同調しやすくなり、多様な意見が出しにくくなります。

改善例:「その他に改善点や他の意見を持っている方はいらっしゃいますか?」
この質問は、全ての意見が尊重される環境を作り、参加者が自由に反対意見や異なる視点を表明できるようにします。さらに、全員に均等に発言の機会を与えることで発言力の偏りを防ぎ、多様な意見が引き出されやすくなります。

準備とトレーニング方法

認知バイアスを意識し、適切に対処することで、データの信頼性と有効性を高めることができます。モデレーターは、実査本番に向けて事前に準備やトレーニングを繰り返し行い、認知バイアスの影響を最小限に抑えることがとても大切です。

自己認識の向上  

モデレーターが自分の認知バイアスを理解するためのトレーニングが重要です。リフレクション練習を行い、自分の質問の仕方や態度を振り返りましょう。

シナリオプランニング

事前にシナリオを準備し、さまざまな質問パターンを練習します。質問を複数の視点から考え、偏りのない質問を工夫しましょう。

社内パイロットの実施

チームメンバーとロールプレイを行い、インタビューの流れを体験します。認知バイアスがかかりやすいポイントを事前に認識できます。

フィードバックを受ける

パイロットや本番の各セッションごとに、チームメンバーから質問の仕方に対するフィードバックを受けることで、偏った質問をしていないか確認し、改善点を明確にします。

まとめ

今回は、モデレーターとして気をつけるべき基本的なポイントの一部をご紹介しました。モデレータースキルを磨くためには、準備、インタビュー中の対応、インタビュー後の対策、そして継続的な改善が重要です。これらの方法を繰り返し実践することで、より正確なデータを収集し、UXリサーチの質を向上させることができます。

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