生成AI時代のUXリサーチャー:ツールが賢くなる時代に、私たちは何を深めるべきか 

生成AI時代のUXリサーチにおける「問い」の重要性を示す画像。人のシルエットが、テクノロジーを象徴する回路図を背景に、光るクエスチョンマークを思索的に見つめている。

「人を判断するには、その人の答えではなく、問いによって判断せよ。 」 

ヴォルテール 

答えを出すことが、これほど簡単になった時代はありません。 生成AIの登場により、UXリサーチの現場でも、文字起こし、インタビュー要約、感情分析、ジャーニーマップのたたき出しまで、かつては時間をかけていた作業が一瞬で生成されるようになりました。 

「それ、AIにやらせればいいのでは?」 

現場で、そしてクライアントから、そう言われる機会も確実に増えています。 では、これからのUXリサーチャーの役割とは何なのか。 生成AIが“もっともらしい答え”を高速で生み出す時代に、私たちはどんな「問い」を立てるべきなのでしょうか。 

生成AIで「できること」と「できないこと」 

生成AIが実際に担えるようになった業務と、そうでない領域を改めて整理します。 

得意なこと(補助業務としての進化) 

  • 文字起こし・要約: 音声データの高速処理と要点抽出 
  • 感情分類・傾向把握: 発話内容のポジネガ分析や話者分類 
  • 仮説生成の支援: ユーザータイプやシナリオの初期案出し 
  • 既存フレームの適用: AARRRモデル(ユーザー行動の成長段階モデル)といったモデルへの当てはめ 

苦手なこと(いまも人間にしかできない部分) 

  • 非言語的な観察に基づく気づきの生成 
  • 問いの再構成・掘り下げ 
  • 関係性の中で引き出す文脈的な本音 
  • クライアント文化に応じた伝え方・ストーリー設計 

いずれも、すでに言語化された情報を処理する力において、AIは非常に優れています。リサーチ業務の初動は、劇的に効率化されたと言っていいでしょう。 “データを集めてまとめる”作業はAIでも可能になりました。一方で、“意味を読み取り再設計する”ことは、依然として人の領域なのです。 

UXリサーチとは、意味との対話である 

UXリサーチの価値は、単に「答えを出すこと」にあるのではありません。「何が問題なのか」「何が未定義なのか」を見抜き、問い直す力にこそあります。 

現場で起きていることは、必ずしも言葉や数値だけで説明できるものばかりではありません。「言葉では満足と言っているが、操作には迷いがある」「スムーズに使えているように見えるが、実は気を使っている」。 そうした、発話と行動の間に生まれる小さな矛盾や文脈の中にこそ、解決すべき本質的な課題が隠れています。その機微を捉えるのが、「観察」という行為です。私たちは現場で日々、観察とはAIでは代替できない、非常に現場の空気を肌で感じるプロセスであると実感しています。 

ケーススタディ:HMIのケースに見る「観察」でしか気づけないUXの歪み数値には表れない「フリクション」の事例 

ある車載HMIの評価プロジェクトでの事例です。 データ上は「成功」に見えるタスクの中に、人間だけが気づける「歪み」が潜んでいました。 

表層データ

  • タスク成功率: 100% 
  • インタビュー回答: 「とくに問題なく使えました」 
  • 判定: エラーなし、ユーザー満足度高 

行動観察(リサーチャーの視点)

  • ユーザーの行動: 目的地設定の際、無意識にボタンを「タタッ」と2回連打していた。 
  • 微細な反応: 1回目のタップに対し、システム反応がコンマ数秒遅れることで反射的にもう一度押していた(ユーザー自身も自覚なし)。 

意味の読み取り  

本人たちに「使いにくい」という自覚は全くありません。AIもこの“2回押し”を操作ログとして処理するかもしれません。しかし、その指先はコンマ数秒の違和感を検知し、勝手に対策をとっていたのです。 この「まだ顕在化していない不満」こそが、UXの質を決定づけます。ユーザーが言葉にできない微細なひっかかりを見つけ出すこと。これこそが、人間による観察の価値です。

UXリサーチのケーススタディで語られる、車載HMIを操作するドライバーの線画イラスト。データには表れないユーザーの微細な行動を「観察」する重要性を示している。

「問い直す力」が、AI時代の本質的なスキルになる 

AIが即座に「答えを返す」時代だからこそ、UXリサーチャーには「問いを立て直す力」が求められます。

  • 「本当にその比較軸でよいのか?」 
  • 「そもそもその前提は正しいのか?」 
  • 「ユーザーの無意識の行動は、別のニーズを語っていないか?」 

こうした問いは、ツールが返すアウトプットに満足していては生まれません。 インタビューと観察、仮説と違和感の往復をくり返す、人間の思考プロセスの中でしか立ち上がらないものです。 

AIを怖れず、思考の「壁打ち相手」として使う 

生成AIは、使い手の思考を映す鏡のようなものです。AIが出力する回答の質は、私たちが投げかける「問い(プロンプト)」の解像度で決まります。 リサーチの現場経験に基づいた鋭い仮説や、文脈への深い理解があって初めて、AIから本質的な示唆を引き出すことができるのです。つまり、AI時代になってもリサーチャーの経験値が無効になるわけではありません。むしろ、経験豊かなリサーチャーほど、AIという優秀な壁打ち相手を使いこなし、思考を加速させることができるといえます。 

Uismでは、この「鏡」をリサーチを“楽にする”ためではなく、論理の強度を高めるために活用(※)しています。 たとえば、仮説構築の段階であえてAIに批判的な反論を出させることで、見落とし(バイアス)がないかを厳しくチェックする。あるいは、インサイト整理の際に行き詰まった視点を拡張させるための「異質な問い」を投げかけさせる。 

これらはすべて、人間の判断と問いを補強する使い方であり、決して代替させるものではありません。 

AIによって単純作業を圧縮し、空いたリソースのすべてを、人間にしかできない「深い観察」と「対話」に注ぎ込む。それが、私たちのAI活用のスタンスです。 

セキュリティへの配慮 当然ながら、クライアント企業の機密情報や個人情報は一切入力せず、ドイツのサーバー上に構築されたGDPR準拠のセキュアなサンドボックス環境でのみ、論理構造の検証に使用しています。 

おわりに:「問いを立て続ける人」として 

記事のテーマ「問いの重要性」を引用元の哲学者ヴォルテールで表現した線画イラスト。書斎で思索する彼の吹き出しには、問いやアイデアを示す様々なアイコンが浮かんでいる。

生成AIがさらに進化し、いつか“観察を模倣するAI”が登場するかもしれません。 それでも、UXリサーチが“人の営み”であり続ける理由は、次の一点に尽きます。私たちは、意味を問うために観察し、関係の中で問い直し続ける存在だからです。 

「人を判断するには、その人の答えではなく、問いによって判断せよ。 」 

その営みの原点には、冒頭に紹介した、18世紀のフランスの偉大な哲学者ヴォルテールの言葉が静かに息づいています。 

こうしたデータには表れない「人間ならではの深い観察」と、各国の文化的背景までをも読み解く「多国籍な視点」。これらを掛け合わせ、私たちUismは世界7拠点に展開するReSight Globalの一員として、日本国内および海外のUXリサーチを幅広く支援しています。リサーチに関する課題やご相談がありましたら、どんなことでもお気軽にお問い合わせください。 


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