ユーザーの“日常”を理解する近道―ホームビジットの実践ガイド   

UXリサーチにおけるホームビジット

はじめに:朝のキッチンから見えること 

慌ただしい朝のキッチン。湯気の立つマグカップの横に、冷蔵庫には手書きの買い物リストがマグネットで留められている。 

「便利な買い物アプリがあるのに、なぜ紙を使うのだろう?」 

リビングに戻ればスマホのアプリを当たり前のように使うのに、空間が変わると習慣も変わってしまう。 

このような「場面による使い分け」や「何気ない選択」は、アプリの利用ログやリモートインタビューだけでは見えにくいものです。人は言葉以上に習慣に支配されます。その習慣をつかむために有効なのが ホームビジット(訪問調査) です。 

この記事では、ホームビジットの基本的な考え方から、実施の流れ活用事例、そして調査時に注意すべきポイントまでを整理しました。ユーザーの生活をもっと深く知りたい方に向けた実践ガイドをご紹介します。 

ホームビジット(HV)とは? 

ホームビジットはUXリサーチにおける現地調査の一手法です。リサーチャーが対象者の住まいを訪問し、生活環境の中で実際の行動を観察することで、言葉にされないニーズや生活上の工夫、ためらいポイントを捉えます。 

強み

生活の中で起きている「行動」と、それを取り巻く「空間・モノ・家族・制約」を同時に捉える点です。

 

留意点

1回の訪問で見えるのは“ひとコマ”でもあります。だからこそ、得られた発見を意思決定に耐える示唆へ育てるには、他手法との組み合わせて検証・補強するのが効果的です。 

他手法との補完関係

ホームビジットは、生活の「場面×物×人」が交差する現場で“なぜ”を手触りをもって捉えられる—けれど、そこで見えるのは暮らしのひとコマにすぎません。 
その断片を複数の対象者で積み重ね、さらに他手法で検証と補強を行うことで、共通パターンや意味のあるインサイトが浮かび上がってきます。 

HV × インタビュー 
観察を「理由」までつなぐ 

観察で見えた行動(置き場所・回避策)を手がかりに、「なぜそうしているのか」を深掘りします。背景の判断基準が言語化され、示唆の説明力が上がります。

HV × 日記 
ひとコマを「頻度・変動」で補強 

HVで立てた仮説がどれくらい起きるか、曜日・季節・同居者の在宅などでどう変わるかを記録で確かめます。「たまたま」か「繰り返し」かが分かり、整理しやすくなります。

HV × UT 
発見を「検証」へ落とす 

生活文脈で見えた摩擦をタスクに落とし込み、どこで詰まるか/改善案で変わるかを比較します。要因を切り分けやすくなり、設計判断につながります。

では、具体的にどのように進めると再現性のある学びにつながるのか。次に、準備から当日の進行、記録、分析までの流れを整理します。 

ホームビジット調査の全体プロセス 

実施の流れ(約4~6週間)

  1. 企画・設計
    調査目的の明確化、仮説構築、対象者条件の定義 
  2. リクルート
    スクリーニング、日程調整 
  3. 調査案内・同意
    訪問の目的、撮影範囲、プライバシーポリシーの説明 
  4. 実査(ホームビジット)
    現地訪問、観察、インタビュー 
  5. データ整理
    記録のまとめ、写真・動画の紐付け 
  6. 分析・レポート作成・共有
    インサイト抽出、ジャーニーマップ作成、改善提案 

事前準備:チェックリストと体制 

  • カメラ ・ICレコーダー 
  • 予備バッテリー
  • 記録シート・メモ帳 
  • 清潔なスリッパ
  • 同意書 
  • ボールペン
  • 名刺・身分証

最大2名体制(進行+記録)


訪問人数が増えると対象者に圧迫感を与えてしまうため、現場に入る人数は最小限にします。モデレーターは進行と深掘り、補佐は写真・タイムコード・引用などの記録に専念します。

当日の進行(目安:60〜90分) 

所要時間 行程 内容 
5分 挨拶・準備 挨拶、機材設置 
5分 導入 同意確認、撮影可否、撮影NG箇所の確認 
5分 生活動線ツアー キッチン・リビング・作業場など主要スペースの把握 
15–25分 観察 実使用の再現、最近の困りごとを具体物で辿る 
20–40分 観察後インタビュー 満足・不満・工夫・併用・ためらいを深掘り 
5分 クロージング・片付け データ取り扱い再確認、次ステップ共有、撤収 

行動観察の観点(※目的に応じて設計) 

観察ポイントは調査目的によって変わりますが、以下代表例です。

開封〜設置〜初回利用の詰まりどころ、必要な情報・道具、家族の介入ポイントを確認します。

② 継続利用(離脱)改善

置き場所や運用の変化、メンテ負荷、使わなくなるきっかけ、例外時の回避策を捉えます。

③ 複数人利用(家族共有)

ルールや責任分担、代理操作、権限の摩擦、紙・掲示物との併用状況を押さえます。

④ 周辺環境の制約(キッチン等)

手が濡れている/片手/視線や音、置き場・充電、ながら行動の制約を確認します。

Tips: 思考発話法(Think-Aloud)
対象者に「今、何を考えているのか」を声に出してもらう手法です。いわば、ユーザーの思考をリアルタイムで「実況中継」してもらうようなイメージです。 行動の背景にある迷いや判断を言語化して もらえますが、不自然にならないよう重要な場面に限定したり、観察後の振り返りで活用するのがコツです。 

データ分析とレポート

  1. 直後整理
    観察メモを時系列化し、曖昧な部分を補足します。撮影した写真・動画を「行動」「文脈」「発言」と紐付けて保存し、記憶が鮮明なうちに事実関係を整理します。 
  2. チーム議論
    複数人で気づきを共有し、「なぜその行動が起きたのか?」を深掘りして仮説化します。個人のバイアスを防ぎ、多角的な視点を取り入れます。
  3. インサイト構造化
    下記のフレーム(Fact → Friction → Workaround → Insight)を用いて情報を整理し、単なる現象の羅列ではなく、意味のある示唆へと昇華させます。
  4. 可視化とレポート
    ジャーニーマップや行動パターンを作成して可視化します。写真や対象者の発言引用を添えることで、現場感のあるレポートにまとめます。重要なインサイトは製品改善への具体的な示唆として明示します。 
インサイト構造化のフレームワーク

活用事例 

Case1. 家電・スマートデバイス 

(例)スマートスピーカー/ロボットスピーカー 

  • 観察:スマートスピーカーは壁際・コンセント近くに置かれ、ロボット掃除機はドック位置や床の障害物に左右される。
  • 課題:設置・動線の制約で認識や稼働が不安定になり、利用が続きにくい。
  • 改善示唆:推奨配置のガイドと、ドック配置・障害物対策のセットアップ支援を用意する。 

Case2. 生活雑貨 

(例)加湿器/ディフューザー 

  • 観察: 季節や来客の有無によって、置き場所・稼働頻度が大きく変わる。 
  • 課題: 都度の設定や手入れが面倒だと使われなくなる。 
  • 改善示唆: 季節・シーン別プリセットと、手入れの負担を下げる導線(交換時期の通知など)を用意する。 

Case3. 子育て・ファミリー 

(例)ベビーモニター/家族共有

  • 観察: 祖父母宅ではWi-Fi未整備があり、タスク管理は紙とアプリが併用される。
  • 課題: 接続制約と情報分散で、設定につまずき・見落としが起きやすい。
  • 改善示唆: ローカル接続/オフライン通知と、紙×デジタル連携(撮影→共有など)の提供。 

Case4. 高齢者・介護 

(例)血圧計/高齢者スマホ 

  • 観察: 血圧計の設置場所が奥まって継続率低下。家族によるスマホ代理操作が日常化。 
  • 課題生活動線からの逸脱、操作権限の曖昧さ。 
  • 改善示唆: 生活動線上の置き場所ガイド、遠隔支援UIと権限粒度の最適化。 

Case5. 海外ローカライズ 

(例)家電・生活系サービス

  • 観察: 同じ「日常行動」でも、調理手段・食習慣・生活リズム(礼拝/断食など)が国や地域で異なり、利用シーンの前提がズレる。
  • 課題: 日本前提の導線や初期設定だと、現地では使われない/誤解される機能が出て、継続率や満足度が下がる。
  • 改善示唆: 地域プロファイル(調理環境・生活リズム)に基づく初期設定と、時間帯・通知・表示のローカライズ(制約を前提にしたプリセット)を用意する。

まとめ:生活文脈に入る価値 

ホームビジットは、ユーザーの「リアルな生活文脈」を理解するための強力な手法です。 

従来の調査では得られない、空間・習慣・文化に根ざした行動を観察することで、製品やサービスの真のニーズや課題を明らかにすることできます。 


深い理解

習慣や空間の制約まで含めて理解でき、ユーザーの行動背景を深く把握できます。 


実行可能な洞察

改善点や新たなイノベーションの種を見つけ、製品開発に直結する示唆が得られます。 


グローバル適応

海外展開時の文化的な摩擦を事前に発見し、ローカライズの成功確度を高めます。 

Uismでは、国内・海外でのホームビジット調査をサポートしています。「海外のユーザー実態を早く知りたい」など、ご要望に合わせて最適なプランをご提案します。 


海外でのUXリサーチTips

各国での調査Tipsも過去記事で紹介しています。海外調査を検討する際のヒントとしてご覧ください。

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