なぜ企業は「改悪」をしてしまうのか:UXリサーチが防げる3つの失敗 

プロダクトの「改悪」とUXに関する記事のアイキャッチ画像。ユーザーが日常的に行うログイン操作のイラストで、UI変更によって壊されがちなユーザーの「習慣」や「期待」を象徴している。

記事の要約

  • 改悪の本質は、ユーザーが積み上げてきた「無意識の習慣」や「期待」を壊すことにあります。 
  • 数字への偏重や組織の縦割りが、良かれと思った施策を構造的な改悪へと変えてしまいます。 
  • UXリサーチの真の役割は、新機能の検討以上に「何を壊してはいけないか」を見極めることです 

先日、iPhoneのOSが自動でアップデートされ、見慣れた表示や操作感が少し変わっていました。大きな変更ではないのに、昨日まで無意識にできていた操作が、急に「考えないとできない」ものに変わっている。こうした体験は珍しくありません。アップデート後に「前のほうが使いやすかった」「なぜ変えたんだろう」と感じる。SNSでは、こうした拒絶反応がしばしば一言で表現されます。 

「今回のアップデート、改悪では?」 

これは巨大なプラットフォームだけの話ではありません。アプリのリニューアル、会員登録フローの変更、ECサイトの購入導線の見直し、SaaSの管理画面改善など、日々のプロダクト改善の現場でも同じことは起こります。 

企業は決して悪くしようと思って変更しているわけではありません。より良くしようとした結果が、ユーザーには改悪として受け取られてしまう。 

このねじれは、なぜ起きてしまうのでしょうか。 

改悪とは、ユーザー体験の暗黙の前提を壊すこと 

まず前提として、改悪とは単に機能が悪くなることではありません。改悪とは、ユーザーの中で成立していた体験、いわば企業とユーザーのあいだにあった暗黙の契約を、一方的に破棄してしまうことです。

無意識にできていた操作がやりにくくなる、期待と違う挙動になる。そうした小さな違和感の積み重ねが、「使いづらさ」という確信に変わります。

ユーザーの期待という「的」を外してしまったプロダクトの「改悪」を象徴する画像。たくさんの矢が放たれているが、どれも的の中心を捉えていない。

 ユーザーは変化そのものを嫌うわけではありません。価値が明白な進化は歓迎されます。問題なのは、ユーザーの文脈を無視した「意味の伝わらない変化」です。企業側にどれほど正当な意図があっても、文脈を欠いた変更は改善ではなく改悪として記憶されます。

改悪を生む3つの構造 

では、なぜ企業は意図せず改悪を起こしてしまうのでしょうか。そこには、個別の判断ミスというより、改悪を生みやすい3つの構造があります。  

1. 測りやすいものを最適化しすぎる 

クリック率やCVRは重要です。ですが、数字が改善しても、体験まで良くなっているとは限りません。たとえば、会員登録率を上げるためにポップアップやリマインド表示を増やした結果、短期的なCVRは上がっても、ユーザーにとっては「しつこい」「邪魔」と感じられることがあります。 

悪意があるわけではありません。むしろ、正しい数字を追った結果として起きてしまう。そこに、この問題のやっかいさがあります。 

私たちのUXリサーチの現場でも、数値上は改善しているにもかかわらず、実際のユーザーからは「前より使いづらくなった」「目的の操作にたどり着きにくくなった」と語られるケースがあります。 

2. 組織の中で全体体験が見えなくなる 

改悪は、一人の判断ミスで起きるとは限りません。むしろ多いのは、みんながそれぞれ正しいことをしているのに、全体としてUXが崩れるケースです。 

開発は新機能を進める。マーケティングは登録率を上げたい。営業は問い合わせ導線を目立たせたい。個別には合理的でも、それらがつながっていなければ、ユーザー体験は簡単にちぐはぐになります。たとえば、マーケティング部門は訴求を強め、開発部門は新機能を追加し、営業部門は問い合わせ導線を目立たせる。その一つひとつは合理的でも、ユーザーから見ると画面全体が過剰になり、何をすればよいのか分かりにくくなることがあります。 

UXリサーチの現場では、こうした「誰も間違っていないのに体験が崩れる」ケースは珍しくありません。部門ごとの目的が積み重なった結果、ユーザーにとっての一貫性が失われてしまうのです。 

3. ユーザーの習慣や文脈を見落とす 

ユーザーは、毎回UIを考えながら使っているわけではありません。多くの操作は、すでに習慣として身体に入っています。ボタンの位置を指が覚えている。画面遷移の順番を体が覚えている。そうした無意識の流れが、使いやすさを支えています。 

たとえば、よく使うボタンの位置を少し変えただけでも、毎日使っているユーザーにとっては大きな負荷になります。企業側には小さなUI調整でも、ユーザー側では「いつもの流れが崩れた」と感じられるのです。我々が行うユーザビリティテストでも、ユーザーが「使いづらい」と明確に言語化する前に、操作が一瞬止まる、無意識に別の導線を探し始める、本来の目的とは違う行動を取る、といった変化として現れることがあります。 

改悪とは、機能が悪くなることだけではありません。ユーザーが無意識に使えていた流れを壊してしまうことでもあるのです。 

なぜUXリサーチが防波堤になれるのか 

改悪を防ぐために必要なのは、単にユーザーの意見を聞くことではありません。何を変えるべきかを決める前に、何を壊してはいけないかを見極める視点です。 

リニューアルの前に、確認すべき問いがあります。 

  • ユーザーが、どの操作を迷わず(無意識に)行っているか 
  • どの画面遷移を「当然のもの」として受け入れているか 
  • どの導線が、安心感や信頼感を支えているのか 

こうした「壊してはいけない体験」を事前に把握しておくことが、UXリサーチの重要な役割です。そのためには、発言の裏にある「行動」を捉える必要があります。たとえば、ユーザーの生活現場に入り込むコンテクスチュアル・インクワイアリは、言葉にできないニーズを理解する上で有効です。

また、変更後の体験が意図通りに伝わっているか、操作上の迷いや負荷が生じていないかを確認するには、ユーザビリティテストが欠かせません。 

まとめ 

多くの改悪は、ユーザーを無視しているから起きるのではありません。ユーザーを数字や属性でしか捉えられず、その背景にある習慣や文脈を見誤るから起きます。プロダクトを成長させたいなら、一度、「何を改善したか」ではなく、**「何を壊してしまったかもしれないか」**という視点に立ってみてください。 

Uismでは、表面的な声だけでなく、体験が成立している深い文脈まで読み解くことで、本当に意味のある改善を支援しています。自社のプロダクトが、良かれと思った変更によって、いつの間にかユーザーを追い詰めていないか。もし少しでも気になることがあれば、ぜひ一度ご相談ください。 


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