フッサール現象学で読み解くUXの構造:「なんとなく良い」を言語化する 

UX設計における意味の流れとユーザー体験を表現したインターフェース操作のイメージ

記事の要約

  • ユーザーは機能そのものではなく、「次にどうなるか」という意味の流れを体験している。
  • UX設計の本質は、行動・文脈・意味づけをつなぎ、期待を途切れさせない構造を設計することにある
  • UXリサーチの役割は、「なんとなく良い」を感覚で終わらせず、意思決定に使える構造として言語化することにある。 

なぜ、「なんとなく良い」を言語化すべきなのか 

私たちは日々、なぜか心地よく使えるプロダクトに出会います。迷いなく操作できるアプリ、気づけば何度も使いたくなるサービス。そうした体験に触れると、つい「なんとなく良い」と表現してしまいがちです。 

しかし、その「なんとなく」の裏側には、必ず理由があります。優れたUXは、偶然に生まれているわけではありません。なぜそのプロダクトは使いやすく感じられるのか。なぜその体験は自然で、途中でつまずかないのか。その構造を考えるうえで手がかりになるのが、20世紀初頭に現象学を築いた哲学者、エドムント・フッサールの視点です。 

フッサールは、現象学の創始者として知られる哲学者で、人が世界をどのように経験しているかを捉えようとしました。私たちが何かを使うとき、ただ機能に触れているのではなく、意味のある対象として世界を経験している。そう考えると、UXの見え方も少し変わってきます。 

志向性:ユーザーは機能ではなく意味を操作している 

フッサール現象学の根幹に、志向性という概念があります。平たく言えば、意識は常に何かに向かっているという性質です。 

ユーザーは、ただ漫然と画面上のボタンを眺めているわけではありません。このボタンを押せば次に進めるはずだここを開けば知りたい情報があるはずだ、という期待を持ちながら画面に向き合っています。つまり、ユーザーは機能を操作しているのではなく、その先にある意味へ向かいながら体験してるのです。

そして体験は、バラバラの点ではなく、過去の経験と未来への期待がつながった一つの流れとして立ち上がります。この意味の流れがスムーズであれば心地よさが生まれ、滞った瞬間にストレスや違和感が生まれます。 

UX設計の本質は意識の流れを調律すること 

心地よい体験の正体は、ユーザーの期待とプロダクトの反応の一致にあります。 

たとえば、ECサイトで購入手続きを進めている場面を想像してください。ユーザーが次は確認画面だろうと期待している瞬間に、突然会員登録を求められたらどうでしょうか。多くの人は、そこで一瞬手が止まります。これは単に手順が増えたからではありません。ユーザーの中で流れていた購入という意味の流れが、そこで断ち切られたからです。 

UXとは、単なる画面の美しさではなく、次の三つの要素が重なり、途切れずにつながる構造そのものを指します。 

行動
ユーザーが何を成し遂げようとしているのか

文脈
どのような状況や空気の中で使っているのか

意味づけ
その行為に、本人がどんな意味を見出しているのか

UX設計の本質とは、これらが織りなす意識の流れを淀ませず、ユーザーの期待が自然につながっていくよう支える構造を設計することなのです。

「なんとなく良い」で止まることのビジネスリスク 

なんとなく良いという直感は、設計の出発点として重要です。しかし、その感覚を言語化せず、構造として理解しないまま放置することには大きな危うさがあります。なぜ良いのかを構造で説明できなければ、成功の再現も、改善の方向づけもできません。結果として、プロダクトの意思決定は、声の大きい人の意見や偶然に左右されるようになります。 

自らの設計がどのような構造に基づいているのかを捉えないまま進めることは、暗闇で舵を握るようなものです。うまくいった理由も、失敗した理由も自分たちの言葉で語れない組織は、市場の変化に対応する力を失ってしまいます。 

リサーチは、なぜそれが起きたのかを読み解く 

ここに、Uismが考えるUXリサーチの真価があります。リサーチとは、単にユーザーの意見を集めたり、使いやすさを採点したりするものではありません。その本質は、体験がどのように成り立っているのかという背後の構造を読み解くことにあります。 

ログデータ

何が起きたのかを示す客観的な記録

UXリサーチ

「なぜ起きたのか」という意味の構造を読み解く

リサーチが読み解こうとするのは、次のような要素です。  

  • 発言の裏にある、本当の動機  
  • 無意識のうちに行われている、身体化した操作  
  • 感情が動いた瞬間に、意識がどこへ向かっていたのか  

だからこそリサーチでは、操作が成功したかどうかだけでなく、そのときユーザーが何を期待していたのか、その行為を本人がどのような意味で捉えていたのかまで見る必要があります。

これらを捉えるためには、ユーザーを実際の文脈の中で観察することが欠かせません。体験の構造を多角的に読み解くために用いられる、代表的な調査手法を紹介します。

コンテクスチュアル・インクワイアリ

ユーザーの生活現場に入り込み、本人も気づいていない無意識の操作や、その場の環境が体験にどう影響しているかを捉える手法。 

日記調査

一定期間の記録を通じて、単発の調査では見えにくい、時間の流れの中で変化する体験や気持ちを捉える手法。

ユーザビリティテスト 

ユーザーの期待とプロダクトの反応がどこでずれ、どの場面でつまずきや違和感が生まれるのかを明らかにする手法。 

仮説を判断の軸に変える 

多くのプロジェクトは、不確かな仮説から始まります。 

リサーチ前:曖昧な仮説


  • この機能が必要ではないか 
  • この導線が悪いのではないか 

リサーチ後:判断の軸


  • この機能は、ユーザーのこの意味づけを支えているから残すべきだ  
  • この導線は、ユーザーの期待の流れを妨げているから見直すべきだ  

構造が見えて初めて、私たちは迷いなく進むべき方向を選べるようになります。フッサールの視点からUXを捉えると、それは単なるインターフェースの問題ではなく、人がどのように意味あるものとして世界を経験しているのかという、人間理解そのものです。

おわりに 

今回はフッサールの志向性からUXの構造を読み解きましたが、体験を考える切り口は他にもあります。たとえば、哲学者アンリ・ベルクソンは、体験を分割できない旋律のような時間の流れとして捉えました。構造を読み解くフッサールと、旋律としての体験を捉えるベルクソン。こうした複数の哲学的視点は、リサーチにさらに深みを与えてくれます。 

だからこそUXリサーチは、見えた事実を並べるだけでなく、その背後にある体験の構造を読み解く必要があります。Uismは、その構造を実務の意思決定につながる形で整理し、次の一手を支えることを重視しています。  

UX Research & Strategy

UXリサーチ・戦略支援

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