くるるえびすでの一日から考える、インクルーシブデザインとコミュニケーション 

記事の要約

  • 渋谷区のくるるえびすの日常活動に参加し、知的障害のある方々の表現や参加のあり方、スタッフの丁寧な関わりから多くの示唆を得た。 
  • 言葉だけでなく、選択、表情、身振り、ためらい、繰り返しの動作など、言葉にならない反応を捉えることがUXリサーチでは重要である。
  • インクルーシブデザインでは、本人だけでなく、家族、支援者、スタッフ、物理的・デジタル環境など、その人を取り巻く支援の構造まで含めて体験を理解する必要がある。

先日、私たちUismは渋谷区社会福祉協議会しぶやボランティアセンターのご縁で、渋谷区くるるえびすを訪問しました。 当日は、施設で行われている日常の活動に参加させていただきました。

くるるえびすは、知的障害のある方が日中の時間を過ごし、創作活動、身体を動かす活動、音楽、園芸など、さまざまなプログラムに参加する施設です。日々の活動は、利用者一人ひとりの状態や関心に合わせて組み立てられており、スタッフの方々が丁寧に関わりながら、その人らしい参加のあり方を支えています。 

Uismでは、アクセシビリティやインクルーシブデザインに関わる調査・評価にも取り組んでいます。製品やサービスの使いやすさを考えるとき、画面や機能だけを見るのではなく、その人がどのような環境で、誰と関わり、どのように意思を表し、どのような支援の中で行動しているのかを理解することが欠かせません。 

今回の訪問は、何かを一方的に提供するためのものではありませんでした。むしろ、くるるえびすの皆さんの日常の場に迎え入れていただき、同じ時間を過ごしながら、コミュニケーション、参加、支援、環境について改めて考える機会となりました。 

くるるえびすの日常活動に参加して 

当日は、施設に到着したあと、スタッフの皆さんと利用者の皆さんにご挨拶しました。この日の利用者は12名。渋谷区内の各地域からバスで到着され、それぞれの一日が始まっていきます。最初は、私たち自身にも少し緊張がありました。どのように関わればよいのか、どのような一日になるのか、わからない部分も多かったからです。しかし、その緊張は、利用者の皆さんやスタッフの方々のあたたかい雰囲気によって、少しずつほぐれていきました。 

一日の始まりはラジオ体操でした。身体を動かしながら、全員で少しずつ場に入っていく。日本ではおなじみの始まり方ですが、そこにはその場のリズムを整える役割もあるように感じました。くるるえびすでは、一日の活動がいくつかの時間帯に分かれており、午前と午後にそれぞれ複数のプログラムが行われます。Uismのメンバーも分かれて参加し、園芸、音楽、身体を動かす活動、アート、刺繍など、できるだけ多くの活動に関わらせていただきました。 

ひまわり畑での活動

午前中、あるグループは近くの畑に向かい、草むしりやひまわりの手入れを行いました。道中や作業中には、利用者の方の関心や好きなものに触れる場面もありました。

くるるえびすの利用者とスタッフが畑で草むしりや植物の手入れをしている様子
浅川 有毅 - Yuki Asakawa
浅川

一緒に歩いた方は、言葉でたくさん話すタイプではありませんでしたが、コーヒーが好きだと教えてくれました。畑に向かう途中でカフェや自動販売機を見かけるたびに、すごく勢いよく指を差してくれたのが印象的でした。セーラームーンも好きなようで、履いていたセーラームーンの靴下をうれしそうに見せてくれました。 

音楽活動で生まれる自然なやり取り

別のグループは、室内で音楽の活動に参加しました。歌を歌ったり、楽器を鳴らしたりしながら、利用者の皆さんと一緒に音を出していきます。それぞれに好きな楽器や反応の仕方があり、音楽を通じて自然なやり取りが生まれていました。印象的だったのは、スタッフの方々の関わり方です。活動を進行する方は、元音楽の先生とのことで、全体を見ながらも、一人ひとりの反応に合わせてテンポや声かけを調整されていました。場をまとめる力と、個々のペースに寄り添う柔軟さが同時にあることで、利用者の皆さんも安心して参加できているように見えました。

利用者とスタッフが輪になって座り、太鼓や鍵盤楽器、ピアノなどを使って音楽活動をしている様子。
ミラー・ロス - Ross Miller
ミラー

前職で英語の先生をしていた頃は、先生1人に対して生徒40人ほどという環境にも慣れていました。しかし今回のような場では、一人ひとりに合わせて関わることがどれほど大切なのかを、改めて感じました。くるるえびすでは、スタッフの方々が利用者の方々にとても丁寧に寄り添っており、その手厚い体制が活動全体を支えていることがよくわかりました。  

創作活動から見える個性と選択

午後は、軽いストレッチなど身体を動かす活動に加え、アートや刺繍などの創作活動も行われました。昼休みには、施設内に飾られている作品や、制作されたバッグ、小物などを見る機会がありました。作品には利用者の方の名前も添えられており、色使いや形の選び方から、一人ひとりの個性や感性が感じられました。 

刺繍の活動では、スタッフと利用者が小さなグループになり、布に糸を通していきます。スタッフが縫う場所の目印をつけ、それに沿って利用者の方が縫い進める場面もあれば、自分の感覚で自由に刺繍を進める方もいました。 

利用者が赤い布に刺繍枠をあて、針と糸を使って細かな刺繍を進めている様子。
利用者がデニム生地に刺繍枠をあて、色とりどりの糸で模様を縫っている様子。
佐藤 愛衣 - Mei Sato
佐藤

私はある女性の隣で、糸を通した針を渡すお手伝いをしていました。縫い終わると針を返してくださるので、次に使いたい糸の色を選んでもらい、その糸を針に通してお渡ししました。「どの色にしますか?」と聞くと、かごの中をのぞき込み、迷うことなく色を選ばれていました。たくさんの色の中から、全体のバランスを見ながら均等に色を選んでいる様子が、とても印象に残っています。

現場で見えたコミュニケーションの多様さ

一日を通じて印象に残ったのは、利用者の皆さんが、それぞれ違った形で意思や関心を表していたことです。たくさん話す方もいれば、言葉よりも表情や身振りで伝える方もいます。好きなものを指差す、音に反応する、色を選ぶ、同じ動作を繰り返す、少し立ち止まる。そうした一つひとつの行動に、その方の関心や意思、安心感、不安、楽しさが表れているように感じました。 

同時に、スタッフの方々の関わり方にも多くの学びがありました。活動を進めるだけでなく、一人ひとりの状態や反応を見ながら、声をかける、待つ、距離を取る、手を添える、選択肢を示す。そうした小さな調整が、利用者の皆さんの参加を支えていました。 

これは、単に手厚い支援という言葉だけでは表しきれないものです。相手をよく見て、その人のペースや表現に合わせて関わること。その積み重ねによって、安心して参加できる環境がつくられているのだと感じました。 

また、診断名や障害の種類だけでは、その人のことはわかりません。コーヒーが好きなこと、好きなキャラクターがいること、音楽の中で好きな楽器があること、刺繍の色を迷わず選ぶこと。そうした具体的な場面に触れることで、一人ひとりの好みや表現、得意なことが見えてきます。 

金谷

今回の体験は、私たちが無意識に持っていた前提や固定観念を捉え直す機会となりました。属性で人を見るのではなく、一人ひとりをその人として見ること。そして、多くの方がそれぞれの関心領域の中で豊かな創造性や感性を発揮している姿に、大きな刺激を受けました。 

UXリサーチとインクルーシブデザインへの示唆 

今回の訪問を通じて改めて感じたのは、インクルーシブデザインは、抽象的な属性や一般化されたニーズから始まるものではないということです。実際の人が、実際の環境の中で、どのように過ごし、何に反応し、どのように参加しているのか。その文脈に触れることで、初めて見えてくることがあります。 

言葉にならない反応を捉える 

UXリサーチでは、言葉として語られたことはもちろん重要です。しかし、体験のすべてが言葉で表現されるわけではありません。これは、言葉で説明することが難しい人に限った話ではなく、自分の考えをはっきり言葉にできる人であっても同じです。

  • 何を選び、何を避けるのか。
  • どんな場面でためらい、どのような表情を見せるのか。
  • どのような動作や関わり方を繰り返すのか。

そうした言葉にならない反応も、体験を理解するうえで大切な手がかりになります。特に、言葉で説明することや、一般的なインタビュー形式で意思を伝えることが難しいユーザーと向き合う場合、リサーチャーには、質問する力だけでなく、観察する力、待つ力、環境や周囲の関わりを読み取る力が求められます。 

支援の構造と環境も、体験の一部として捉える 

アクセシビリティは、製品やサービスそのものの機能だけで完結するものではありません。家族、支援者、スタッフ、物理的な環境、デジタル上の導線、活動の流れ、周囲からの声かけや手助けも、その人の体験の一部です。何かを評価・デザインするときには、本人だけを見るのではなく、その人を取り巻く支援の構造や環境まで含めて捉える必要があります。 

これは、医療、福祉、教育、公共サービス、そして私たちが多く関わるデジタルプロダクトなど、さまざまな領域に共通する視点です。ユーザーを一つの属性や診断名として捉えるのではなく、その人がどのような文脈の中で生活し、どのように意思を表し、どのような形で参加しているのかを見ていくこと。そこから、より実態に即したインクルーシブデザインが始まるのだと思います。 

アクセシビリティは、単に利用できる状態をつくることだけではありません。参加できること、選べること、自分らしく表現できること、そして尊厳を保てること。そのために何が必要なのかを考え続けることが、UXリサーチやインクルーシブデザインに関わる私たちにとって重要であると、思いを新たにしました。 

くるるえびすでの学びを、これからのデザインへ 

今回、くるるえびすの皆さんの日常活動に迎え入れていただいたことで、私たちは多くのことを感じ、考える機会をいただきました。

利用者の皆さんが見せてくれた表情や選択、スタッフの方々の丁寧で柔軟な関わり方、活動の中で自然に生まれるコミュニケーション。その一つひとつが、インクルーシブデザインを考えるうえで大切な示唆を含んでいました。 

くるるえびすのスタッフの皆様、利用者の皆様、そして今回の機会をつないでくださった、しぶやボランティアセンターの皆様に、心より感謝申し上げます。

「ボランティアさんが5人くらいきました」と書かれた紙に、5人の人物が鉛筆で描かれている。
利用者の方が描いてくださった、心温まる絵のプレゼント。

Uismとしても、今後も実際の人、場、文脈に向き合いながら、より多くの人にとって使いやすく、参加しやすいプロダクトやサービスづくりに貢献していきたいと考えています。 


関連リンク

  • 渋谷区くるるえびす
  • 渋谷区社会福祉協議会しぶやボランティアセンター
UX Research & Strategy

UXリサーチ・戦略支援

UismのUXリサーチ支援内容については、サービスページをご覧ください。

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