記事の要約
- アクセシビリティ対応は、ガイドラインやチェックリストへの適合だけでなく、実際のユーザーが迷わず安心して使えるかまで確認することが重要です。
- UXリサーチでは、アクセシビリティ上の課題をユーザーの行動・利用文脈・負担感から捉え、具体的な設計改善につなげることができます。
- 合理的配慮や法令対応を義務として終わらせず、製品やサービス全体の使いやすさを高める取り組みとして位置づけることが大切です。
アクセシビリティという言葉を聞くと、Webサイトの文字サイズやコントラスト、キーボード操作、スクリーンリーダー対応などを思い浮かべる方は多いと思います。もちろん、こうした対応はとても重要です。アクセシビリティに関するガイドラインやチェック項目は、より多くの人が製品やサービスを利用できるようにするための大切な土台です。
ただ、基準を満たしていることと、実際のユーザーが迷わず、安心して使えることは、必ずしも同じではありません。スクリーンリーダーで読み上げられるようになっていても、読み上げの順序が自然でなければ、ユーザーは情報の意味をつかみにくくなります。ボタンのラベルやコントラスト比が基準を満たしていても、表現や画面全体の情報量によっては、次の行動に迷ったり、必要な情報を見つけにくかったりすることがあります。
つまり、アクセシビリティは、対応しているかどうかを確認するだけでは十分ではありません。実際に使う人が、どのような状況で、何に迷い、どこで負担を感じているのか。そこまで見ていく必要があります。
そこで役立つのが、UXリサーチの視点です。私たちUismでは、デジタルサービスや医療・ヘルスケア領域の調査を通じて、使いにくさや不安が画面上の仕様だけでなく、利用環境、支援技術の使い方、身体的・心理的な負担の中に現れることを見てきました。
アクセシビリティは一部の人だけのためではない
アクセシビリティは、障害のある人だけを対象にした特別な対応だと捉えられることがあります。しかし実際には、より多くの人が製品やサービスを使いやすくするための基本的な考え方です。見えにくい、聞こえにくい、押しにくい、理解しにくい、判断しにくい。こうした困りごとは、障害の有無にかかわらず、年齢やけが、病気、利用環境の変化によって誰にでも起こり得ます。
そう考えると、アクセシビリティは一部のユーザーのためだけのものではありません。さまざまな状況にある人が、より自然に、安心して使える体験をつくるための考え方だと言えます。日本でも、アクセシビリティへの関心は高まっています。2024年4月から、改正障害者差別解消法により、民間事業者にも合理的配慮の提供が義務化されました。Webアクセシビリティの領域でも、WCAGやJIS X 8341-3を踏まえた対応の重要性があらためて注目されています。
ただし、ここで大切なのは、アクセシビリティを法令対応やチェックリスト対応だけで終わらせないことです。基準への適合は重要な出発点です。その先には、実際に使えるか、理解できるか、不安なく使い続けられるかという、ユーザー体験の問題があります。
UXリサーチはアクセシビリティ課題を設計判断につなげる

アクセシビリティ評価では、ガイドラインへの適合状況を確認し、利用上の問題点を見つけることが重要です。ただ、問題を指摘するだけでは、製品やサービスの改善には十分につながりません。たとえば、スクリーンリーダーで情報が読み上げられる状態になっていても、それだけで十分とは限りません。読み上げの順序がユーザーの作業の流れに合っているのか。ボタンやリンクのラベルが、次に何が起こるのかを正しく伝えているのか。エラーが起きたときに、どこで問題が起き、何をすればよいのかが理解できるのか。こうした点は、支援技術を使うユーザーの実際の行動を見て初めて気づけることがあります。
UXリサーチでは、こうした課題を、実際のユーザーの行動や発話、迷い、操作の流れから捉えます。アクセシビリティ上の問題を、単なる不備としてではなく、ユーザーが目的を達成するうえでの障壁として理解する。そのうえで、どのような改善が必要なのかを設計判断につなげていく。ここに、アクセシビリティ対応におけるUXリサーチの役割があります。
アクセシビリティニーズのあるユーザーを調査に含める
製品やサービスの開発では、ターゲットユーザーを想定し、インタビューやユーザビリティ評価を行うことがあります。しかし、その対象者の中に、アクセシビリティ上のニーズを持つユーザーが含まれていないことも少なくありません。年齢、性別、職業、利用経験などはリクルート条件として設定されていても、視覚、聴覚、運動、認知、発話、学習、加齢による変化などは、十分に考慮されていないことがあります。
もちろん、すべての調査であらゆる特性のユーザーを含めることは現実的ではありません。それでも、製品やサービスの性質によっては、早い段階から多様なユーザーの利用を想定し、必要に応じて調査対象に含めることが重要です。開発の終盤になってから確認するだけでは、大きな設計変更が難しく、表面的な修正にとどまってしまうこともあります。
そうすることで、日常生活での困りごと、プロトタイプ上の迷い、実際の利用フローで生じる不安や負担を確認できます。こうした理解が、より実態に即した設計判断につながります。
実利用環境で見ることで、見えにくいバリアに気づく
アクセシビリティの課題は、製品やサービスそのものだけでなく、使われる環境によっても変わります。調査会場や会議室では問題なく使えても、自宅や職場、移動中、医療現場、店舗など、実際の利用環境では異なる困りごとが生じることがあります。
利用環境1
自宅で使うデジタルサービス
- 部屋の明るさ
- 文字サイズ
- デバイス
- 音量の設定・通信環境
- 家族・介助者の関わり方
利用環境 2
医療機器・ヘルスケア製品
- 保管場所
- 使用姿勢
- 手順の確認方法
- 不安・緊張の有無
利用環境 3
支援技術・個人設定
- スクリーンリーダーの読み上げ速度
- 画面の拡大率
- 入力デバイス
- 字幕音量の設定
整えられた調査環境だけでは見えない、日常の中での工夫や負担を観察する。そこに、画面上の仕様やチェック項目だけでは捉えきれないバリアを見つける手がかりがあります。
使えるだけでなく、安心して使い続けられるか
アクセシビリティ対応では、操作できるか、情報にアクセスできるかが重要な確認ポイントになります。しかし、実際のユーザー体験を考えると、それだけでは十分ではありません。操作はできても、毎回大きな負担がかかるのであれば、使い続けることは難しくなります。情報にアクセスできても、内容を理解するまでに時間がかかったり、次に何をすればよいか不安になったりすれば、安心して利用することはできません。
特に、金融、医療、行政、教育、公共交通、生活インフラに関わるサービスでは、使いにくさが単なる不便にとどまらず、ユーザーの選択肢や行動を制限してしまうことがあります。だからこそ、アクセシビリティは、使えるかどうかだけでなく、安心して使えるか、自分で判断できるか、使い続けられるかという視点で捉える必要があります。
UXリサーチは、こうした体験の質を理解するための手段です。ユーザーの声や行動を通じて、どこに障壁があるのか、何が不安につながっているのか、どのような改善が実際の使いやすさにつながるのかを明らかにします。
合理的配慮や法令対応を、よりよいUXにつなげる
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法制度への対応やガイドラインの遵守は、アクセシビリティに取り組むうえで欠かせない出発点です。一方で、義務感だけでチェックリストを埋めていく進め方は、開発チームにとって負担が大きく、対応そのものが目的化してしまうこともあります。本来、アクセシビリティに向き合うということは、開発に制約やルールを増やすことではないはずです。むしろ、製品やサービスが持つ価値を、これまで十分に届いていなかった人にも届けていくための取り組みだと私たちは考えています。
UXリサーチを通じて、実際のユーザーの利用文脈や困りごとを理解することで、アクセシビリティ対応は単なる法令遵守のための作業ではなく、製品やサービス全体の体験品質を高めるための取り組みになります。対応しなければならないものとしてではなく、より使いやすく、より安心できる体験をつくるための機会として捉える。その視点を持てると、アクセシビリティは開発や改善のプロセスに自然に組み込まれていきます。
アクセシビリティを、よりよい体験設計の一部として捉える
アクセシビリティは、特別な対応ではありません。より多くの人が、自分に合った方法で、無理なく製品やサービスを利用できるようにするための体験設計です。そのためには、ガイドラインや専門的な評価に加えて、実際のユーザーを理解することが欠かせません。
アクセシビリティ対応をチェックリストで終わらせず、実際の利用文脈に基づく設計判断につなげていく。そこに、UXリサーチが貢献できる余地があります。
Uismでは、UXリサーチとヒューマンファクター評価の視点を組み合わせ、ユーザーの行動、利用環境、心理的な負担まで含めて、製品・サービスの使いやすさを検証しています。アクセシビリティ対応を基準への適合だけで終わらせず、実際に使う人の行動や文脈に目を向けること。それが、より多くの人にとって使いやすく、安心できる体験づくりにつながると考えています。
参考文献
UX Research & StrategyUXリサーチ・戦略支援
UismのUXリサーチ支援内容については、サービスページをご覧ください。
