2026年9月、Appleは初の折りたたみiPhone「iPhone Duo」を正式に発表しました。「新鮮さがあるから売れている」という説明で終わらせず、折りたたみという形状がユーザーの行動そのものにどんな変化を生んでいるのか、というUXの視点から掘り下げます。「なぜ今、折りたたみなのか」という疑問を持つスマホ・デバイス関連の企画・開発担当者、UXリサーチに関心がある方に向けた内容です。
記事の要約
- スマホのコモディティ化が、なぜ形状による差別化競争を生んでいるのか
- 「開く」という所作が、儀式性やコントロール感といった心理面からユーザーの行動モードをどう切り替えているのか
- なぜ選ぶか・選ばないかの解像度を上げるために、次に何を調べるべきか
スマートフォンはなぜ「折りたたみ」に向かっているのか
スマホのコモディティ化とは何か
ここ数年、スマートフォンの新機種を見て「去年とあまり変わらない」と感じたことはないでしょうか。カメラの画素数やチップの処理性能は年々向上しているものの、見た目や基本的な操作体験は横並びになりつつあります。これがいわゆる「コモディティ化」です。機能の頭打ちが進むほど、メーカーは差別化の軸を「性能」から「形状」や「体験」そのものへとシフトさせる必要に迫られます。折りたたみという形状の変化は、この差別化競争がたどり着いた解の一つだと見ています。

各社の折りたたみモデルの広がり
Samsungの「Galaxy Z Fold」シリーズを筆頭に、Google、Motorola、HuaweiなどがそれぞれBook型(横折り)・Flip型(縦折り)の折りたたみモデルを展開しています。そして2026年9月、Appleも初の折りたたみiPhone「iPhone Duo」を発表しました。世界的な市場調査でも、2026年の世界折りたたみスマートフォン出荷台数は2150万台(前年比25%増)と予測されており、Appleの参入が市場拡大を後押しする構図が見えてきます。日本国内では2026年度に折りたたみスマートフォンの出荷が前年度比127.5%増の76万台に拡大すると分析されており(出典:MM総研 )、これまでニッチだった折りたたみが、一部の層だけの選択肢ではなくなりつつあることがうかがえます。
折りたたみが変えているのは、画面の大きさではなく「行動モード」ではないか
新鮮さという説明だけでは足りない
スペック表を見比べても違いが分かりにくくなった今、ユーザーが新機種に求めるものは「もっと速く」「もっと綺麗に」だけではなくなっています。折りたたみスマホの登場を、こうした目新しい体験への欲求、いわば「新鮮さ」を求める心理で説明する見方もあります。ですが、この記事で注目したいのはむしろ、心理的な説明よりも先に、折りたたみという形状そのものがユーザーの行動を物理的に切り替えているのではないか、という点です。
「開く」という所作が生むモードの切り替え
折りたたみが持つ「開く」という所作は、単に画面が大きくなるということ以上に、「見る・受け取る」モードから「作る・考える」モードへの切り替えスイッチとして機能しているのではないでしょうか。閉じたまま片手で操作する状態は、通知の確認や短い連絡といった受動的な利用に向いています。一方、両手を使って開いた状態は、資料作成やAIとの壁打ち、複数アプリを並べての比較検討といった能動的な利用へと自然に切り替わっていきます。
なぜ所作の変化が、これほど強く感じられるのか
「開く」という所作が単なる操作以上の意味を持つのには、心理的な理由がありそうです。
儀式性
ノートPCの蓋を開け閉めする感覚に近く、「開く」という物理的な動作そのものが、「これから集中モードに入る」という心理的な区切りを自分自身に与えている、と捉えることもできそうです。
コントロール感
画面のサイズを自分の意思で変えられること自体が、「今は受け身でいい」「今は集中したい」という自分の状態を、目に見える形でコントロールできているという満足感につながっている可能性があります。
なぜ形状で語ることに意味があるのか
スマホをめぐる議論は、チップの性能や画面の綺麗さといったスペックの話に終始しがちです。Uismが以前取り上げた物理キーボードと電子ペーパーが示す、次のUX という記事でも触れたように、機能競争が頭打ちになったとき、見直されるのはハードウェアの形状そのものだったりします。「開く」という物理的な所作が行動そのものを変えているのだとすれば、それはスペックでは説明できないUXの領域です。折りたたみスマホが向かう先は、単なる「大画面スマホ」ではなく、タブレットやノートPCが担ってきた「作業・思考のための端末」という役割を、ポケットに収まるサイズで代替していく方向にあるのかもしれません。この「役割」という視点は、以前紹介したマーケットリサーチとUXリサーチの違いをJTBDで解説というJobs to be Doneの考え方とも重なります。1台で受動的な利用と能動的な利用の両方を使い分けられる、いわば「ハイブリッドな携帯端末」への進化です。
利用シーンの変化は、行動モードの切り替えとして読み解ける
このモードの切り替えという視点に立つと、これまで語られてきた利用シーンの変化も、また違った形で見えてきます。
コンパクトさが変える持ち運び方・使い方
折りたたみによる「コンパクトさ」は、Uismが以前取り上げた軽自動車とUXに関する記事とも通じる観点があります。軽自動車のコンパクトさは日本特有の狭小な道路環境や駐車事情から生まれた文脈である一方、折りたたみスマホのコンパクトさは「携帯性」と「大画面での作業性」という相反するニーズを一台で両立させたいという、使用シーンの多様化から生まれた文脈です。背景は異なりますが、「コンパクトであること自体が独自の価値を持つ」という点は共通しており、比較する価値のある視点だと言えます。
「受け取る」から「作る」へ広がるコンテンツ活用
折りたたみスマホが開くと得られる大画面は、動画視聴やマルチタスクとの相性の良さがしばしば語られます。動画や電子書籍などのコンテンツを広い画面で楽しめる点は「受け取る」モードの延長ですが、複数のアプリを同時に開くマルチタスク機能が仕事や学習用途にも向いている点は、複数のガジェットメディアが取り上げています(出典:ガジェット関連記事、2024年)。さらに近年は、生成AIをスマホ上で使う場面も増えており、AIとの対話やAIが生成した資料を確認しながら別の作業を並行するといった、まさに「作る・考える」モードでの利用が広がっています。
読書端末としての可能性
折りたたみスマホは一過性のトレンドか、定着するUXか
実機を触った所感
折りたたみスマホがまだ目新しかった発売初期の頃、家電量販店で実機に触れた際には、正直なところ違和感がありました。画面中央の折り目や、開閉時の厚みなど、従来のスマホに慣れた手には馴染みにくい部分があったのです。しかし同時に、閉じた状態と開いた状態とで、自分の中で「見るモード」と「作るモード」が自然に切り替わっていく感覚があり、「これは画面の大きさの話ではなく、行動そのものが変わる体験だ」という気づきがありました。動画視聴やマルチタスク、そして今では生成AIとの対話まで、当時想像していた以上に用途が広がりつつある現状を見ると、あの気づきはあながち的外れではなかったのかもしれません。こうして振り返ると、あの気づきは儀式性とコントロール感という2つの感覚が組み合わさったものだったのかもしれません。
今後の活用シーンの広がりへの期待
市場データを見ても、日本国内の折りたたみスマホ市場は2025年度比で4.6倍に拡大し、年間スマホ出荷台数の約5%を占めるまでに成長すると予測されており(出典:MM総研 )、折りたたみは一過性のブームというより、着実に定着へ向かっていると見てよさそうです。
もっとも、本当に定着するかどうかは、折りたたみでなければ得られない体験が、日常の使用シーンの中にどれだけ根付くかにかかっています。「なぜ人は折りたたみを選ぶのか、あるいは選ばないのか」——この解像度をどこまで上げられるかが、次のプロダクト企画の分かれ目になるはずです。だからこそ、今調べるべきは折りたたみそのものの評価だけではありません。今のコモディティ化されたスマホを使いながら、ユーザーがどこに物足りなさを感じているのか、何が「できていない」と感じているのか、そして未来の携帯端末をどう使いたいと思っているのか。こうした潜在的な不満やニーズにこそ、次の一手のヒントがあるはずです。
Uismでは、こうした潜在的な不満やニーズを言語化するための定性的なUXリサーチを支援しています。ユーザーインタビューや行動観察を通じて、「なぜ人はその選択をするのか」という心理のメカニズムまで掘り下げたい。そうした課題をお持ちの企画・開発担当者の方は、お気軽にご相談ください。
参考
- iPhone Mania
- 折りたたみiPhoneの発売時期に関する情報(Bloomberg・DigiTimes等の報道まとめ)
- 折りたたみiPhoneの発売時期・スペックまとめ
- 国内・世界の折りたたみスマートフォン市場動向(MM総研、2026年7月発表)
- 折りたたみスマホのメリット・活用シーンに関する解説
- フォルダブル端末での電子書籍ユースに関する実機レビュー
- 折りたたみスマホの縦折り/横折りタイプ別の活用シーン解説
UXリサーチ・戦略支援
UismのUXリサーチ支援内容については、サービスページをご覧ください。
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