記事の要約
- PMDAのSaMD審査: SaMDは単なるアプリではなく、リスク管理と連動したユーザビリティ規格(JIS T 62366-1)で安全性を証明すべき「医療機器」として扱われる。
- 日米欧の規制比較: PMDA要件に加え、米FDAの「Human-AI Team」や欧州MDRの市販後要件といった先進事例から、開発戦略の解像度を高める。
- 申請の実務ポイント: 承認申請で必須となる総括的評価の設計や、リスクマネジメントと一貫させるための具体的な勘所がわかる。
医療機器のユーザビリティ評価を専門とする私たちの元には、日々多くのご相談が寄せられます。中でもここ最近、特に急増しているのがSaMD(Software as a Medical Device)に関するお問い合わせです。
「アジャイルで開発を進めたいが、規制要件とどう両立すればいいのか?」
「AIの判断根拠を、どうユーザーに伝えれば安全に使ってもらえるのか?」
こうした声の背景には、SaMDをとりまく市場の熱気があります。この変化を理解するために、現状を整理しておきます。
そもそも「SaMD」とは?
SaMDとは、国際医療機器規制当局フォーラム(IMDRF)によって「ハードウェアの医療機器の一部とならずに、医療目的を果たすソフトウェア」と定義されています。日本では薬機法上、医療機器プログラムに分類されるものです。
このSaMD市場は今、急速に拡大しています。日本国内の承認・認証数は右肩上がりに増え続け、2025年3月時点で581品目に達しました。ここ数年では、遺伝子変異解析プログラム、アルコール依存症治療補助プログラム、不眠障害用プログラム、高血圧症治療補助プログラムといったプログラムやアプリが新医療機器として承認を受けています。
この急成長の背景には、主に3つの要因があります。
- 法規制の整備
薬機法の改正でソフトウェア単体が医療機器と定義され、ビジネスの土台が整いました。 - 国の後押し
PMDAは「DASH for SaMD」を掲げ、2024年7月には「プログラム医療機器審査部」を新設。開発を加速させる体制が強化されています。 - AI技術の進化
特に、私たちの専門であるUXの観点で最も影響が大きいのがこの要因です。AIによる画像診断支援など、高度なSaMDが次々と登場し、医療の質を大きく変えようとしています。 さらに、高齢化が進む日本では、遠隔モニタリングや在宅での診断支援が喫緊の課題となっており、ここでもAI搭載SaMDへの期待が高まっています。これは、医療従事者だけでなく患者本人や家族が直接触れる機会が増えることを意味しています。
重要なのは、SaMDは人体への影響が極めて低い「クラスI」には分類されず、規制対象となる場合は原則としてクラスII(管理医療機器)以上に該当することです。
この結果、医療機器が使われる場所は病院から在宅へ、ユーザーは医療者から患者本人や家族へと広がっています。だからこそ、多様なユーザーが安全に使えるようにするためのユーザビリティの確保が、SaMD開発において非常に重要になります。

なぜSaMDに「ユーザビリティ」が不可欠なのか?
SaMDには、物理的な破損リスクはほとんどありません。しかし、それゆえに怖いのが使用エラーです。UI(ユーザーインターフェース)を通じて提示される情報の誤認や操作ミスが、診断や治療の誤りという重大な危害に直結しかねません。
特にAI搭載型SaMDでは、その解析結果をユーザーがどう解釈し、誤診を防ぐかという「理解可能性・説明可能性」*が、安全性の核心を握ります。
「分かりやすさ」だけではPMDA申請は通りません。「ソフトウェアなのだから、直感的に操作できれば問題ないのでは?」この考え方だけでは、現在のPMDA申請に十分対応できない場合があります。
2024年4月以降、医療機器の承認申請では、最新の国際規格 JIS T 62366-1:2022(または同等の国際規格)への適合が、基本要件基準を満たすための事実上の前提条件となりました。これは、単に「使いやすい」という主観的な評価ではなく、規格に基づいたプロセスを通じて安全性を確保したことを、論理的に証明する必要があるということです。
* 理解可能性・説明可能性: PMDAが近年特に重視している点です。表示された結果が診断・治療判断に直結するSaMDでは、単なる操作ミスだけでなく、ユーザーが結果を誤読したり、過信したり、不必要に不信感を抱いたりすること自体も、安全性において検討対象になり得ます。
PMDA申請で求められるSaMDのユーザビリティ要件
PMDAの申請資料(STED)では、「4.4 ユーザビリティ」の項目にJIS T 62366-1等に基づく評価概要の記載が義務付けられています。ここで精査されるのは、単に「テストをやったか」ではなく、リスクマネジメント(JIS T 14971)と一貫したロジックで繋がっているかという点です。
では、具体的に何を押さえるべきなのでしょうか。特に重要な3つのポイントを挙げます。
Point 1 総括的評価は事実上必須
クラスII以上のSaMDでは、開発の最終段階で実際のユーザー(医師や患者など)を対象としたユーザビリティテスト(総括的評価)が原則として重要になるケースが多くあります。 この段階では、「安全性に関するユーザビリティが妥当であること」を裏づける説明や記録が求められます。この総括的評価を含むエンジニアリングプロセスを完遂し、その記録を残すこと自体が、安全性を担保したという強力な客観的証拠となります。
Point 2 リスクマネジメントとの完全な連動
ユーザビリティの評価は、リスクマネジメント(JIS T 14971)と一体です。どのような操作ミスが、どのような危険につながるかを整理し、そのリスクに対してどのような低減策を講じたのかを説明できることが重要です。
Point 3 PMDAとの「早期相談」を使いこなす
変化の速いSaMD開発では、後工程での大きな手戻りは大きな負担になり得ます。PMDAが設けている「SaMD一元的相談窓口」*1や「DASH for SaMD」*2などを戦略的に活用し、開発の早い段階で評価方針の妥当性を確認しておくことが、実務上有効なアプローチです。
*1: PMDAにはソフトウェアの医療機器該当性や薬事開発について一括して相談できる窓口が設置されており、開発の初期段階からの支援が行われています。
*2:厚生労働省は、SaMDの早期実用化を促進するための戦略「DASH for SaMD(プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略)」を推進しています。
海外の先進的なSaMD規制
SaMD開発の最前線に立つためには、日米欧の規制動向を理解しておくことが開発戦略を立てる上で重要です。特に、米国のFDAと欧州のMDRで示されている考え方には、日本での今後の議論を考えるうえでも参考になる点があります。
米国(FDA)の視点
FDA関連の考え方は、 形式的なプロセス遵守だけでなく、実際にどのようにリスクを低減できているかという観点がより強く意識されています。また、AI搭載機器では、認知面まで含めた検討がより明示的に求められる傾向があります
Human-AI Teamモデル
FDA関連文書では、ユーザーを単にAIの指示に従うだけの存在としては捉えていません。 AIとユーザーが協力して最善の意思決定を行う「Human-AI Team」というモデルを提唱しています。開発者には「AIがどうユーザーをサポートし、チームとして機能するか」を意識した設計が求められます。
認知的リスクの評価
ボタンの押し間違い(物理的エラー)だけでなく、AIへの「過信」や「不信」といった心理的な影響(認知的リスク)の検証を重視します。AIが提示する情報が、医師などのユーザーの判断や思考プロセスにどう影響するかまで評価することが、FDA 関連文書では重視されています。
AIの透明性を高める「Model Card」
AIの学習データや性能、限界をまとめた「プロフィールカード」とも言える「Model Card」の活用を推奨しています。AIの能力と限界をユーザーが正しく理解し、適切に利用するための仕組みです。
欧州(MDR)の視点
欧州のMDRでは、特に市販後の活動について、日本国内の実務感覚とは異なるレベルで、より明確な要求が示されています。
QMSと市販後活動の密接な結びつき
日本では別々に管理されがちな品質管理(QMS)と市販後安全管理(PMS)ですが、MDRでは、両者を一体的に運用することが求められます。市販後の活動も、品質システムの一部として管理しなくてはなりません。
市販後の計画書も製品の設計図の一部
市販後監視計画書や報告書(PSUR)も、CEマーキングの適合性を示す「技術文書」の一部と見なされます。つまり、これらも認証機関(NB)による厳格な審査対象です。
報告書は「積み上げ式」
クラスIIa以上のSaMDに義務付けられる定期報告書(PSUR)は、単発のレポートではありません。市販後に得られたデータを継続的に累積しながら、ベネフィット・リスク評価を更新していく文書として管理することが求められます。*
* AIを用いたソフトウェアの場合、AI Act(欧州AI法)との重複も考慮し、継続的な精度や堅牢性の監視が必要になる場合があります。
まとめ: SaMD開発成功のカギは「安全性」と「UX」の両立
一般的なソフトウェア開発で重視されるUX(ユーザーエクスペリエンス)が満足度や効率を追求するのに対し、SaMDにおけるユーザビリティは安全性を絶対的な基盤とします。
SaMDの開発では、この「満足できる使いやすさ(UX)」と「間違えさせない設計(安全性)」の両立が、重要なテーマになります。
複雑な規制要件と、チームが目指す理想のプロダクト設計。その間で、開発の舵取りに悩んでいませんか?
私たちUismは、医療機器分野のUXリサーチ・デザインにおいて豊富な知見を持つ専門家集団です。 PMDA審査をクリアするための総括的評価の設計・実施から、規制とUXを両立させるUI設計のコンサルティングまで、皆様のSaMD開発を力強く伴走支援いたします。
「このUI仕様で、本当に申請が通るか不安だ」
「海外のユーザビリティ評価データを、日本の申請に活用できないだろうか?」
こうした具体的な課題をお持ちでしたら、ぜひ一度、私たちにお聞かせください。一緒に解決の糸口を見つけていきましょう。
参考:
- 「プログラム医療機器の薬事開発・承認申請 に関する 手引き」(PMDA)
- 医療機器の承認品目一覧
- 「~第1回ARCBとPMDAの定期会議・産業界との連携会議~SaMDの認証審査において留意していただきたい事項」(JIRA)
- FDA Human Factors Expectations For AI-Enabled Medical Devices (2026): A Regulatory & Usability Framework
- Artificial Intelligence-Enabled Device Software Functions: Lifecycle Management and Marketing Submission Recommendations (U.S. Department of Health and Human Services Food and Drug Administration)
- 【徹底解説】欧州医療機器規則MDRにおけるPMS・ビジランス (株式会社イーコンプライアンス)
- Introduction to the MDR and the European Regulatory Landscape for Medical Device Software
医療機器UX・安全性評価
医療:医療機器・SaMD領域におけるUismの支援内容については、サービスページをご覧ください。
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