突然ですが、質問です。
明日の昼、同僚とランチに行くお店を決めたいとします。あなたはどうしますか?
「何が食べたい?」と聞くかもしれません。でも、もし誰かが最初から「和食と洋食、どっちがいい?」とアンケートを送ってきたらどうでしょう。
予算は?移動時間は?そもそも全員で外食できるの?
決めるために必要なことは、まだ何も整理されていません。
これは、アンケート設計でよく起きる罠の縮図です。
なぜこうなってしまうのでしょうか。
「とりあえずアンケート」が失敗する理由
アンケートを作ろうと思った時、多くの人はすぐに「何を聞こうか」と設問を考え始めます。これ自体は自然な反応ですがここには大きな落とし穴があります。
「何を聞くか」を考え始める前に、「なぜ聞くのか」「何を知りたいのか」が曖昧なまま設問を作り始めてしまうことです。
よくある設問例
結果として、次のような質問が並びがちです。
- 「このサービスへの満足度を10段階で教えてください」
- 「改善してほしい点があれば教えてください」
- 「今後も利用したいと思いますか?」
一見まともに見えます。でも、これらの回答を集めた後、あなたは何ができるでしょうか?
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満足度が6だった
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改善点に”使いにくい”と書かれた
それで、次に何をすべきか、明確になりますか?
問題は、設問そのものだけじゃない
実際に企業様からご相談を受ける中でも、「過去にアンケート調査を実施したが、結果を見ても意思決定につながらない」という課題は珍しくありません。
詳しくお話を伺うと、設問そのものに問題があるというよりも、「この調査結果を使って何を判断したいのか」が事前に整理されていないケースが多く見られます。
つまり、アンケート設計で最初に考えるべきなのは、設問そのものではなく、調査結果をもとに下したい意思決定なのです。
アンケート設計で最初に考えるべきこと
アンケートを作る前に、まず自分自身に問いかけてほしいことがあります。
「このリサーチの結果を受けて、自分(またはチーム)は何を決断するのか?」
UXリサーチの実践書『Just Enough Research』(Erika Hall著、A Book Apart、2019)は、リサーチを始める前に「いつまでに、何を決めるか」を明確にすることが成功の鍵だと述べています。
設問を考える前に、まず意思決定の中身を問い直す。
この考え方は、リサーチ設計の基本原則として広く参照されています。
意思決定が明確だと、聞くべきことが絞られる
例えば、次のような意思決定です。
- 「次のアップデートで、機能Aと機能Bどちらを優先するかを決めたい」
- 「ターゲット層を20代から30代に広げるべきかを判断したい」
- 「離脱率が高いステップの原因を特定して改善施策を打ちたい」
こうした決断の骨格が先にあると、聞くべきことが自然と絞れてきます。逆に、この問いが不明確なまま設問を並べると、回答を集めても「で、どうする?」と立ち往生することになります。
悪いアンケートと良いアンケートは何が違うのか?
ここまで、「アンケートを作る前に、まず意思決定を考えることが大切」とお伝えしてきました。とはいえ、初めてアンケートを設計する方にとっては、「実際に、悪いアンケートと良いアンケートは何が違うの?」と感じるかもしれません。
そこで、具体例で見てみましょう。
たとえば、ある化粧品ブランドが「今年のクリスマスコフレの売り上げを上げるためのプロモーション案を考えたい」とします。
悪いアンケート:関係ありそうなことをとりあえず聞く
一方このとき、いきなり次のような設問を作ってしまうケースがあります。
- 「今年のクリスマスコフレに興味はありますか?」
- 「どのSNSをよく使いますか?」
- 「クリスマスコフレを購入したいと思いますか?」
- 「どのような商品が欲しいですか?」
もちろん、これらの設問自体が必ずしも悪いわけではありません。目的によっては、必要な質問になることもあります。ただし、何を判断するための質問なのかが曖昧なまま並んでいると、回答を集めたあとに困ってしまいます。
たとえば、この回答を集めたあとに、チームは何を決められるでしょうか。
| 集まる回答 | 分かること | まだ判断しづらいこと |
|---|---|---|
| Instagramをよく使う人が多い | 利用SNSの傾向 | 広告予算をInstagramに集中すべきか |
| かわいいデザインが好き | 好まれる印象 | 自分へのご褒美、ギフト、限定感のどれで訴求すべきか |
| 購入したい人が一定数いる | 興味・購入意向 | 何が購入の決め手になるのか |
| インフルエンサーを見ている人が多い | 接触している情報源 | 美容系YouTuberを起用すべきか、一般ユーザーの口コミを重視すべきか |
このように、なんとなく参考になりそうな情報は集まります。しかし、具体的な判断にはつながりにくいのです。悪いアンケートとは、設問の日本語が不自然なアンケートではありません。回答を集めたあとに、意思決定へつながる道筋が弱いアンケートです。
良いアンケート:意思決定から逆算して聞く
一方で、良いアンケートは、最初に「何を決めたいのか」がはっきりしています。
同じクリスマスコフレの例でも、次のように考えると設問が変わります。
| 意思決定 | 知りたいこと | 設問例 |
|---|---|---|
| どの訴求メッセージで広告を打つか | 購買意欲が高まる訴求ポイントは何か | 次の3つの投稿のうち、最も欲しいと感じるものはどれですか? |
| どのSNSに広告予算を集中させるか | クリスマスコフレの情報をどこで最初に知るか | 昨年、クリスマスコフレの情報をどこで最初に知りましたか? |
| どのインフルエンサー層を起用するか | 誰の推奨やレビューを信頼するか | クリスマスコフレを選ぶとき、誰の意見を参考にしますか? |
| 何を購入決定要因として訴求するか | 購入の決め手になりやすい要素は何か | 購入の決め手になりそうなものをすべて選んでください。その中で最も重要なものを1つ選んでください。 |
たとえば、訴求メッセージを比較したい場合は、実際の広告に近い投稿パターンを見せて選んでもらいます。こうすると、単に「興味がありますか?」と聞くよりも、広告メッセージ、出稿先、起用する人の判断に使いやすいデータが集まります。
つまり、良いアンケートとは、きれいな設問が並んでいるアンケートではありません。調査結果を見たあとに、「では、次に何をするか」を決められるアンケートです。
「知りたいこと」と「聞くこと」は別物
もう一つ、見落とされがちな点があります。「知りたいこと」と「アンケートで直接聞けること」は、必ずしも一致しないということです。
たとえば、「なぜユーザーが離脱しているのか」を知りたい場合。「なぜ離脱しましたか?」と直接聞いても、ユーザー自身が原因を自覚していないことは少なくありません。
むしろ、
- 「最後に使ったときに困ったことは?」
- 「次の機能として何があれば戻ってきたいと思う?」
といった間接的な問いのほうが、本質に近づけることがあります。
この「知りたいこと → 聞き方の設計」という変換こそが、リサーチ設計の核心です。
離脱理由
なぜ離脱しましたか?
最後に使ったとき、
どの場面で困りましたか?
購入理由
なぜ買いましたか?
購入前に比較した商品はありますか?
最後の決め手は何でしたか?
改善要望
改善してほしい点は?
直近で使いにくいと感じた場面を教えてください。
初めてのアンケート設計で実践したい3ステップ
ここまでの例を、どんなアンケートにも使える手順として整理すると、次の3ステップになります。
まず考えるべきなのは、このアンケート結果を使って、何を決めたいのかです。
例えば、
- 機能Aと機能Bのどちらを優先するか
- どのターゲット層に注力するか
- どの広告メッセージを採用するか
ここで大切なのは、「売り上げを上げたい」「満足度を上げたい」といった大きな目的のままでは、設問はぼんやりとしがちです。
「そのために何を選ぶ必要があるのか」「どの選択肢の中から判断したいのか」まで具体化すると、アンケートの方向性がはっきりします。
次に、意思決定のために必要な情報を整理します。
例えば、
- どのユーザー層が最も不満を持っているか
- どの情報接点が購買に影響しているか
- どの訴求が行動につながりやすいか
- どの要素が購入や継続の決め手になっているか
ここでのポイントは、知りたいことをそのまま設問にしないことです。
最後に、知りたいことを設問に変換します。
このときは、次のような観点で聞き方を選びます。
- 直接聞くのか、過去の行動を聞くのか
- 単一回答にするのか、複数回答にするのか
- 自由記述にするのか、選択肢にするのか
- 比較パターンを見せて選んでもらうのか
- 複数回答のあとに、最も重要なものを選んでもらうのか
3ステップまとめ表
| ステップ | 考えること | 例 |
|---|---|---|
| 意思決定 | 調査結果を使って何を決めるか | どの訴求メッセージで広告を打つか |
| 知りたいこと | 判断に必要な情報は何か | 購買意欲が高まるポイントは何か |
| 聞き方 | どう聞けば引き出せるか | 投稿パターンを見せて、最も欲しいものを選んでもらう |
このステップを入れることで、回答者が答えやすく、かつ意思決定に使いやすい設問に近づきます。
おわりに:良いアンケートは、良い問いから始まる
「何を聞くか」より先に「なぜ聞くのか」を問い直す。シンプルですが、これができているかどうかで、リサーチの価値は大きく変わります。
初めて調査を任されたとき、ついつい「設問をたくさん作れば安心」と感じてしまうものです。でも、良いアンケートは設問の数ではなく、設計の思考量で決まります。
- 調査結果をどう活用すればいいかわからない
- 本当に聞くべきことが整理できない
- 意思決定につながるアンケートを設計したい
という課題があれば、設問作成の前段階であるリサーチ設計から見直してみることをおすすめします。
あなたのチームの次のアンケートでは、設問を書く前に少し立ち止まってみませんか?
「このアンケートで、私たちは何を決めるのか?」
その一問が、すべての始まりです。
もし「自社だけで整理するのが難しい」「第三者の視点で設計を見直したい」と感じた場合は、早い段階から相談してみるのも一つの方法です。リサーチ設計から意思決定につながるアンケート設計まで、伴走してご支援いたしますので、お気軽にお問い合わせください。
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